生前贈与は何歳からできる?
「相続対策のために孫に贈与したいけど、まだ小さいので贈与と認められるかどうか不安」「一体何歳からなら贈与できるのか?」と疑問に思っておられる方も多いと思います。今回の記事をお読みいただくと、まだ未成年のお孫さんに贈与しても、税務署から文句を言われない贈与の仕方を理解することができます。
1.未成年者への贈与契約は成立するか?
贈与契約は「あげます、もらいます」の双方の承諾があって成立する契約です。例えば生まれたての赤ちゃんに現金をあげたい場合、赤ちゃんはもらいますという意思表示ができないので、この契約は成立しないのではないかと考えておられる方は多いようです。
確かに民法では次のように書かれています。
民法549条(贈与)
贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。
それでは、意思表示ができない赤ちゃんへは贈与できないかというと、赤ちゃんに限らず未成年者の法律行為について民法では次のように定められています。
民法5条(未成年者の法律行為)
未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為についてはこの限りでない。
この法定代理人とは、親権をもつ両親ですので、両親が赤ちゃんに代わって受贈の意思表示をすることにより贈与は成立します。まずは、この民法上の要件を満たしているかという問題をクリアする必要があります。
また、贈与税申告さえしていれば、贈与と認めてもらえるのではとお考えの方もおられますが、国税不服審判所の裁決例では、「贈与税の申告および納税の事実は贈与事実を認定するうえでの一つの証拠としては認められるものの、贈与事実の存否は飽くまでも具体的な事実関係を総合勘案して判断すべきと解するのが相当である」となっており、要するに贈与税の申告をしたら必ず贈与と認められるわけではなく、民法上の贈与契約成立要件を充足しているか、実際に財産が移転しているか、財産移転後の管理運用は誰が行っているかというあたりを総合的に判断する必要があるということです。
つまり、未成年者への贈与は成立するが、認められるためには、成人に贈与するよりも気を付けることが多くあるので、この点をわかっている人でなければ、贈与と税務署が認めないこともあるということです。なので、安全をみて赤ちゃんへは贈与はやめときましょうとアドバイスする専門家もいるのではないかと思います。
2.贈与契約書の作成ポイント
どうしても、赤ちゃんへ贈与したいということであれば、契約書の作成は必須です。
民法上は口頭の契約も成立します。ただし、それを証明することは、双方が存命でなければできません。贈与者がお亡くなりになった後に、相続申告をして、税務調査の時に贈与契約の成立を確認されることを考えれば、双方が承諾していたという証拠は残しておかないと、贈与契約の成立は証明できません。
内容としては下記のひな形で良いと思います。本人がサインできる・できないに関わらず、法定代理人である親権者がサインして下さい。
また、念のため公証人役場で確定日付を取っておけば、「後から作成したのではないか」という疑義を持たれることもありません。
3.絶対にやってはいけないこと
贈与契約書を作成して、公証役場で確定日付もとって、贈与するお金も孫の銀行口座へ振り込んで、贈与税の申告も忘れず済ませたにもかかわらず、数年後に自宅の屋根が壊れて急に入用になり、ちょっとこの孫名義のお金を拝借して、自宅の屋根を直した。というようなお話をたまに耳にしますが、これをやってしまうと、お金の管理運用は贈与者が行っていたことになりますので、贈与は形式的には成立しているように見えるが、実質的に成立していないと判断されてしまいます。
これは、未成年者へ贈与した場合に限らず、贈与者がなぜか受贈者名義の通帳も保管していて、必要な時はこの中から出金して、後で返すという行為を繰り返している場合も同様です。それは、贈与したのではなく、名義を借りているだけということになってしまいます。
あと細かいことですが、贈与税の納付書も、受贈者又は受贈者の法定代理人が支払うように、しておいてください。毎年贈与税も贈与される方ならば、贈与税相当の贈与を忘れて翌年申告してしまうというミスを犯しかねませんし、贈与者が贈与税の申告納付をしていて受贈者は何も認識していないようにも誤解されかねませんので、できるだけ紛らわしいことは避けて、本来の納税義務者(受贈者)が納付するようにしておきましょう。
4.必ずしなければいけないこと
今度は必ずしなければならないことですが、親権者は子供が成人したら、親が管理していた子の財産を子へ引き渡さなければなりません。これは、民法828条に規定されており、成人となった日以後の財産の管理運用は、その子に任せなければならないことになっています。これはなかなか勇気がいりますね。私自身の成人したときの精神状態を考えると、大金を渡されてもロクなことに使わないような気がします。これこそ今まで投資教育をしてこなかった日本の教育が問題なのかもしれませんね。親権者の方はお金の大切さとお金をどのように運用するべきか、何に使うべきかをしっかり教育しておかなければなりませんね。
5.まとめ
多くの専門家が判断力がまだついていない幼児への贈与に対して消極的です。それは上記のようなことを完璧に行う一般人がほとんどいないことを知っているからです。しかし赤ちゃんへの贈与がまったく無理かというとそうでもないということもお判りいただけたと思います。
ご自身でしっかりした知識を身に付けて、専門家に相談しながら実行すれば、お金だけでなく、お金に関する知識や基本的な考え方なども子孫に残すことができます。