アパート・貸店舗等を法人化したい
最近アパートや貸店舗を法人で賃貸する方が増加しているためご興味を持たれる方が多いですが、実は法人化以外にもいろいろな手法があり、法人化が必ずしも最適とは限りません。この点は本ブログ「アパート・貸店舗等の収益物件の経営を家族にまかせたい」をご覧いただければ参考となると思います。いろいろな手法を検討された後に、法人化が最良という方の為により詳細に法人化について解説いたします。このブログをお読みいただければ、法人化をするにあたっての不安が解消されます。
目次
1.法人化した方が良い典型的なパターン
皆さんの不動産賃貸業が法人化に向いているかをご判断いただくために下記の法人化した方が良い典型的なパターンを作成しました。一つでも該当する場合は専門家へ法人化の検討をお願いされた方が良いでしょう。
①利益率の高い貸店舗や貸倉庫がある為に不動産所得が高い
②築15年以上のマンションやアパートを所有しているため不動産所得が高い
③相続で上記①や②の物件を取得したが、会社員のため給与所得の上にさらに不動産所得が乗ることになって、所得税が高い
④アパートやマンションを数棟所有され、ご自身で管理されている物件が多い
⑤不動産投資用の収益物件を増やしていきたい
これらに該当された方は、所得税の確定申告書と固定資産税の課税明細書を持って専門家に相談に行かれた方が良いでしょう。お願いされる際は、「所得税の節税効果だけでなく、法人化にかかる経費がいくらなのかと、相続税にどのような影響があるのか、社会保険(健康保険・厚生年金)はどうなるか、消費税の還付は受けられるか?10年程度の長期シミュレーションから判断して法人化が有利となるかどうかを提案して欲しい」とお伝えください。所得税の効果だけの分析や、単年度の効果だけの分析をして法人化が有利という結論を出されているケースも見受けられますので、相談先は慎重にお選びください。
2.合同会社と株式会社どっちが良い?
不動産賃貸業の法人化で利用される法人の形態には合同会社と株式会社が一般的です。両者の違いは一言でいえば、合同会社の方が個人に近い感じです。
下記比較表をご参照ください。
株式会社 | 合同会社 | |
出資者 | 1名以上 | 1名以上 |
出資者の呼称 | 株主 | 社員 |
出資者の責任 | 有限責任 | 有限責任 |
代表者の呼称 | 代表取締役 | 代表社員 |
設立費用 | 実費24万~+手数料 | 実費10万~+手数料 |
資本金 | 1円以上 | 1円以上 |
役員 | 役員は株主以外でもOK 取締役(任期最長10年) 監査役(同 上) | 役員は出資者のみ 役員の任期なし |
議決権 | 1株1議決権 議事内容により過半数又は3分の2以上の賛成が必要 | 出資金額に関係なく原則 社員1人1議決権 議事内容により過半数又は全員の総意が必要 |
個人的な感覚ですが、お子さんがお一人のみなら合同会社、複数人おられるならばそれぞれ一人ずつ合同会社をつくられるか、とりあえず株式会社にしておかれた方が良いと思います。株式会社の議決権は株数を3分の2以上所有しておけば良いですから、後継者が決定してから株式贈与等により生前に法人を継いでもらうお子様に議決権を持たせることが可能ですが、合同会社は社員1人1議決権ですので、設立時に後継者を定めておいて、役員構成をその後継者の家族のみにするなどの工夫が必要です。
3.不動産賃貸業の法人化には2種類ある
法人の形態が株式か合同か決まれば、次は法人の形態を決めます。実は不動産賃貸業の法人化は次の2種類あります。
① 不動産所有型法人 ②不動産管理型法人
① 不動産所有型法人
不動産所有型法人とは個人の所有する建物や土地を、法人が購入し法人名で賃貸する手法です。一般的には建物のみ取得する法人が多く、法人は家賃収入を受け取って地代を個人へ役員報酬をご家族へ支払います。大きな所得税対策効果が期待できますが、個人から法人へ建物を売買により移転させるため、その売買価額の決定については時価である必要がありますので、注意が必要です。また、借入がある場合は固定金利期間に個人契約から法人契約へ移行させた場合、違約金が発生する場合が多いです。一部金融機関では違約金が発生しないように、債務引受という手法で法人へ借入金を引き継いでくれることもありますが、原則違約金も必要と考えておくべきでしょう。
② 不動産管理法人
不動産は所有せず管理のみを請け負う法人です。例えば多数のマンションの管理業務(定期清掃・家賃管理・滞納督促・修繕手配・クレーム対応等)をご自身でされている家主さんは、ご自身の労働については不動産所得の経費となりません。この管理業務を法人が行えば、ご自身の労働にたいして経費化することは可能となります。規模が大きい賃貸アパート・マンションのオーナー向けの法人活用法です。ただし、管理料は他社へ依頼した場合を基準として、仕事内容により決まりますので、それほど多く法人へ所得を移転させることは難しいです。
ただし、法人化するための経費は設立費用以外ほとんどかかりませんので、ひとまず不動産管理法人でスタートしておいて、将来的に不動産所有型法人へ移行することも考えられます。
4.不動産所有型法人のメリット・デメリット
(1)不動産所有型法人のメリット
①法人による経営により家計と経営の分離が行われ、合理的な経営が可能です。
②死亡退職金を支給する場合は500万×法定相続人まで相続税は非課税です。
③遺産分割で取得財産の少ない相続人も法人の経営に加わってもらうことにより、役員報酬の支給等でその分を調整することも可能です。
④相続を繰り返すことによる不動産の細分化がされませんので、不動産細分化による価値の下落をまねくことがありません。
⑤法人の役員にご家族がなられることで、所得が分散されて所得税の節税となります。
⑥上記⑤の場合所得だけでなく、財産も分散される為、相続税が節税となる場合があります。
(2)不動産所有型法人のデメリット
①賃貸用不動産を法人所有とするために、譲渡や現物出資などの手法が考えられますが、いずれの場合も、個人に対して譲渡所得税が課税されます。この場合譲渡価額が時価の2分の1未満である場合は時価により譲渡があったものとみなして譲渡税の計算がされます。また、法人は時価よりも譲渡価額が低い場合はその差額は受贈益として法人税の課税対象とされます。
②建物の移転費用として、登録免許税や不動産取得税が法人へ課税されます。
③法人が個人から不動産を買い取る資金を金融機関から調達する場合は借入が出来ない場合があります(担保不足・返済能力不足・信用不足・・・)
④個人は法人へ財産の売却を行うことにより、時価による売却代金を手にする為、相続税が増加する場合があります。
⑤収益性のよいものが法人へ集中するため、法人化後に財産分割計画を検討した際に、公平な分割が困難になる場合があります。
5.不動産所有型法人化にかかる具体的な経費
不動産所有法人を設立して活用する為の経費として考えられるものは下記の通りです。
① 設立費用(法人)
法人の形式により合同なら約20万程度株式なら40万程度
② 個人に対する譲渡所得税・住民税(個人)
法人へ個人所有の不動産を時価で譲渡するため、譲渡価額から取得原価を控除した金額(譲渡益)に対して、所有期間5年超の長期譲渡の場合で20.315%の譲渡所得税・住民税が課税されます。
時価と取得原価(簿価)の乖離が少ない物件や時価が低い物件は譲渡所得税等の負担が軽いです。
③ 借入固定金利契約違約金(個人)
法人化対象の建物に対する借入金に固定金利契約をされている場合は、その借入を法人へ移行させる際に、違約金が生じます。違約金の金額は金利固定期間と現在の実際の金利により異なりますので、金融機関に問い合わせてみてください。また違約金をできるだけ緩和するという意味で法人での金利を下げる交渉や違約金が発生しないように法人が個人の借入を債務引受することはできないか等交渉してみる余地はあるでしょう。
④ 建物に係る消費税(個人)
個人が消費税の課税事業者である場合は、法人に売却した建物に係る消費税は課税売上となりますので、消費税を納める必要があります。
⑤ 登記費用(法人経費)
所有権移転登記の為に法務局へ登録免許税(固定資産税評価額×20/1000)と司法書士の費用が必要です。
⑥ 不動産取得税(法人経費)
不動産を取得したことにより不動産取得税が県より課税されます。税額は固定資産税評価額×税率ですが、建物の場合の税率は住宅3%、住宅以外4%です。
⑦ 抵当権設定費用(法人)
建物購入代金を借入する場合に抵当権設定費用が必要です。法務局へ登録免許税(借入額の0.3%)必要です。
⑧ 鑑定費用
建物の時価を算定するために不動産鑑定士に依頼した場合は、鑑定費用がかかります。
⑨ 印紙代
売買契約書へ貼付する印紙代・金銭消費貸借契約に貼付する印紙代
⑩ コンサルティング料・申告手数料
法人化の提案料及びコンサルティング料が請求される場合もあります。依頼される際には、この点も事前確認されてからご依頼されることをおすすめします。
6.まとめ
今まで法人化のご相談を多くの方からいただき、所得状況や財産状況以外にご本人の状況、ご家族の状況、相続や不動産賃貸業に対するお考えなどをヒアリングし、その不動産の所在する地域の特性や、今後予想される社会的変化なども考慮して、一件ずつ法人化すべきか?法人化以外に有効な方法はないかと検討をしてきましたが、必ずしも法人化が100%有利とは限りませんでした。優良な物件が数件ある場合は、あえてすべて法人化せずに、一部個人所有としたほうが相続発生時に分けやすいという結論となる場合もありました。このように相談者ごとに結論は違ってくるというのが経験則から言えることです。法人化はあくまでも手段であり目的ではありません。この点を理解している専門家へご相談されることが、最も肝要と思われます。