遺産分割協議書は何通必要?
無事に分割協議も整い、遺産分割協議書を司法書士さんへ依頼して作ってもらうことに。「遺産分割協議書は何通必要ですか?」と聞かれて、「え!急に言われても・・・」とならないために、事前にどこに提出するかを把握しておけば、狼狽えることなく手続きができます。
全員の実印をもらった後に、「あと1通必要だった!」とならないために、今回の記事をご参考にしてください。
1.遺産分割協議書が必要な提出先
遺産分割協議書の提出先は主に次の5か所となります。
①法務局
相続財産に不動産がある場合に、不動産の所有者が相続で別の人に変わったことを登記する必要があります。以前は、相続登記は義務ではなかったのですが、今後義務化されることになりました。この相続登記の際に、新しい所有者がその不動産を相続することを、相続人全員が合意していることを証明するために遺産分割協議書が必要です。ただし、相続人が一人しかいない場合又は法定相続分通りに共有者となる場合は、遺産分割協議書の提出は不要です。
また、相続人が実印を押印して、印鑑証明書を添付するのですが、この印鑑証明書には法務局は特に期限を設けていませんので、印影が同じであれば古いものでも大丈夫です。
相続登記については、当ブログの「相続登記義務化への対応」をご参照ください。
②銀行等の金融機関
銀行の被相続人名義の口座の払い戻しや名義変更にも遺産分割協議書が必要となります。ただし、銀行へ提出する遺産分割協議書に添付する印鑑証明にはほとんどの場合3か月以内などの期限が設けられています。また、遺産分割協議書とは別に銀行所定の用紙に相続人全員の署名・捺印(実印)が必要となる場合がほとんどですので、事前に確認しておく必要があります。
③証券会社
株式や投資信託を相続する場合に遺産分割協議書の提出が必要になります。
また、相続手続きにあたっては、相続人がその証券会社に口座を持っていることが前提となりますので、まだその証券会社で証券口座を持っていない場合は口座開設に必要な書類の確認も忘れず行いましょう。
④税務署
相続税のかかる方は、相続開始から10か月以内に相続税申告書を提出する必要があります。申告期限までに遺産分割協議が終了していれば、配偶者に対する相続税が軽減される制度や、ご自宅など処分が難しい土地について評価を軽減する小規模宅地の評価減が適用されますので、これらの特例を利用する場合は、遺産分割協議書を添付する必要があります。
なお、税務署も法務局と同様で印鑑証明書の期限はありません。
⑤陸運局
自動車の名義変更にも遺産分割協議書の提出が必要です。ただし、査定額が100万円以下の普通自動車は、遺産分割協議成立申立書という書類をその車両を引き継ぐ相続人のみが署名し、実印を押印すれば良いです。また、軽自動車も遺産分割協議書の提出は不要です。
印鑑証明書の期限は3か月以内ですのでご注意ください。
2.相続人にも全員必要?
遺産分割協議書は、相続人全員分の原本を作成することが一般的です。そうしないと、上記1の名義変更手続きを各相続人が同時に着手することができなくなりますし、実印を押した書類の控を求められるのは当然だと思います。
例外的に財産のほとんどを一人が相続して、他の相続人へはお金(代償金)を支払うことで遺産分割協議が成立する場合があります。この場合、現金や小切手で代償金を支払うと同時に遺産分割協議書に押印いただくというやり方ならば、他の相続人には遺産分割協議書原本ではなく、コピーでも問題ないでしょう。もちろん他の相続人から同意を得ることが前提です。
3.原本は返してもらえるか?
①金融機関
金融機関については、遺産分割協議書(原本)を提出すると、窓口担当者がコピーを取って原本を返してもらえる場合と、相続センターへ一旦原本を郵送して、書類審査後に原本一式が返却される流れが多いようですので、遺産分割協議書等の書類を提出した本人が何も言わなくても原本は返却してもらえます。名義変更する金融機関が2~3件の場合は順番に手続きしていけば、金融機関の名義変更用の遺産分割協議書は1通あれば良いでしょう。件数が多い場合は複数準備しておいたほうが、並行して名義変更できますので、金融機関の相続手続きがスムースに行えます。
②税務署
税務署に対しては遺産分割協議書の写しでも大丈夫ですので、部数に余裕がなければ原本を提出しなくても良いです。
③法務局、陸運局
提出先が法務局、陸運局の場合は、何も言わないと原本は返してもらえませんので、「原本還付」という方法を活用して、返してもらいましょう。やり方は、原本還付してほしい書類をコピーして、コピーの余白に「原本に相違ありません」と記載していただいて申請者が署名捺印すれば結構です。複数枚に渡る書類は契印(割印)も忘れず行いましょう。
名義変更を司法書士等の専門家に依頼する場合は、依頼時に原本還付をしてほしいという旨を伝えれば、上記の原本還付手続きは司法書士等が行いますので、依頼者がコピーを取ったりする必要はありません。
4.まとめ
以上の内容をまとめますと、遺産分割協議書は提出先の数+相続人の数の部数を作成するのが原則ですが、法務局や陸運局などは手続きを依頼する司法書士さんや行政書士さんへ原本還付をお願いしておくと、手間もかからず原本還付を受けることができますので、使いまわしができます。
最後に相続人への控に関しては、コピーで済ませる場合は必ず事前に確認を取ってください。分割協議の最後の最後でこんな些細なことでも、紛争に発展することもありますので、最後まで慎重に対処しましょう。