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相続申告後では手遅れになる手続き(所得税編)

 相続発生後はお葬式や各種法要と相続人は大忙しです。「遺産分割の話し合いもこれからだから、話し合いが終わってから、ぼちぼち確定申告のことを考えようかな」と考えておられる相続人の方がほとんどです。しかし、税金が少しでも安くなる制度の届け出期限は意外と近い場合が多く、事前に知っておかないと届け出期限が過ぎてしまっている場合が多いです。今回のブログをお読みいただければ、相続で不動産所得や事業所得を引き継ぐ可能性がある場合には、とりあえず提出しておいたほうが良い申請書に関する知識が身に付きます。

本ブログ「相続申告後では手遅れになる手続き(消費税編)」もご参照ください。 

1.相続申告後では手遅れな手続き

(1)青色申告承認申請の提出期限

 相続税の申告期限は相続発生から10か月以内です。一方相続人の方の青色申告申請は下記の通り相続が発生した時期及び亡くなった方が青色申告であったか等により異なります。なお、相続人が相続前から青色申告者であれば、新たに相続時に申請する必要はなく、被相続人から引き継いだ事業にかかる所得税申告も青色申告となります。

区分青色申告承認申請書の提出期限
①原則青色申告の承認を受けようとする年の3月15日
②新規開業(その年の1月16日以後に新規に業務を開始した場合)業務を開始した日から2か月以内
③被相続人が白色申告者の場合(その年の1月16日以後に業務を承継した場合)業務を承継した日から2か月以内
④被相続人が青色申告者の場合(死亡の日がその年の1月1日から8月31日)死亡の日から4か月以内     
⑤被相続人が青色申告者の場合(死亡の日がその年の9月1日から10月31日)その年の12月31日
⑥被相続人が青色申告者の場合(死亡の日がその年の11月1日から12月31日)相続開始した年の翌年2月15日まで 

(2)ケース別提出期限の具体例

ケース1 相続人が相続開始前より事業(白色申告)を営んでいるケース

 相続人はすでに事業者ですので、被相続人の死亡した日にかかわらず、原則通り、
その年の3月15日が青色申告の申請期限となります。

ケース2 被相続人が白色で、相続人が相続開始前に事業を営んでいないケース

 相続により事業を引き継いだ日(相続開始日)から2か月以内に申請をすることで
その年の申告は青色申告を受けることができます。なお、亡くなった日がその年の1月15日以前であれば、3月15日が期限となります。

ケース3 被相続人が青色で、相続人が相続開始以前は事業を営んでいないケース

 上記表の④~⑥の相続開始時期に応じて、それぞれ定められた日となります。

被相続人の申告状況相続人の状況提出期限
ケース1 相続前から事業ありその年3月15日
ケース2白色相続前は事業なし相続の日から2月以内
ケース3青色相続前は事業なし(1)の表④から⑥の日

多くの場合がこのケース3に該当すると思われますが、死亡の時期によって最短2か月、最長4か月ですので、いずれにしても、分割協議が終わってからでは間に合わないケースがほとんどです。

(3)青色申告の特典

青色申告の特典のうち主なものは下記の通りです。

①青色申告特別控除

イ 不動産所得又は事業所得を生ずべき事業を営んでいる青色申告者で、これらの所得に係る取引を正規の簿記の原則、(一般的には複式簿記)により記帳し、その記帳に基づいて作成した貸借対照表及び損益計算書を確定申告書に添付して法定申告期限内に提出している場合には、原則としてこれらの所得を通じて最高55万円(令和元年以前は最高65万円)を控除することとされています。

(注)令和2年分以後の青色申告特別控除について、この55万円の青色申告特別控除を受けることができる人が、電子帳簿保存(※)又はe-Taxによる電子申告を行っている場合は、65万円の青色申告特別控除が受けられます。

(※) 令和4年分以後の青色申告特別控除については、その年分の事業における仕訳帳及び総勘定元帳に係る電磁的記録等の備付け及び保存が国税の納税義務の適正な履行に資するものとし一定の要件を満たしている場合に、65万円の青色申告特別控除を受けることができます。

 なお、既に青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている人で、仕訳帳及び総勘定元帳の電磁的記録等による備付け及び保存に係る承認を受けて当該仕訳帳及び総勘定元帳の電磁的記録等による備付け及び保存を行っている場合には、令和4年分以後も65万円の青色申告特別控除を受けることができます。

ロ 上記イ以外の青色申告者については、不動産所得、事業所得及び山林所得 を通じて最高10万円を控除することとされています。

青色事業専従者給与

 青色申告者と生計を一にしている配偶者やその他の親族のうち、年齢が15歳以上で、その青色申告者の事業(不動産所得の場合は事業的規模※の場合のみ)に専ら従事している人に支払った給与は、事前に提出された届出書に記載された金額の範囲内で専従者の労務の対価として適正な金額であれば、必要経費に算入することができます。
 なお、青色事業専従者として給与の支払を受ける人は、控除対象配偶者や扶養親族にはなれません。


※不動産所得の事業的規模
不動産の貸付けが事業として行われているかどうかについては、原則として社会通念上事業と称するに至る程度の規模で行われているかどうかによって、実質的に判断します。

 ただし、建物の貸付けについては、次のいずれかの基準に当てはまれば、原則として事業として行われているものとして取り扱われます。

  1.  貸間、アパート等については、貸与することのできる独立した室数がおおむね10室以上であること。
  2.  独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。

③純損失の繰越しと繰戻し

 事業所得(不動産所得の場合は事業的規模の場合のみ)などに損失(赤字)の金額がある場合で、損益通算の規定を適用してもなお控除しきれない部分の金額(純損失の金額)が生じたときには、その損失額を翌年以後3年間にわたって繰り越して、各年分の所得金額から控除することができます。

 また、前年も青色申告をしている場合は、純損失の繰越しに代えて、その損失額を生じた年の前年に繰り戻して、前年分の所得税の還付を受けることもできます。

 対処法としては、被相続人から事業を引き継ぐ可能性のある相続人は、とりあえず提出期限内に青色申告承認申請書と開業届を提出しておいて、分割協議の結果、事業を引き継がないこととなった場合は、開業届の取り下げと青色申告の取りやめ届出書を提出するという方法でご対応される場合が多いようです。

2.今後の節税に役立つ工夫

 青色申告以外に相続後の税金を下げる工夫としては、財産(特に不動産所得が発生する不動産)の分割を考える際に、所得を分散することにより、今後の所得税の負担が異なります。

(1)所得分散による効果

 所得税は不動産所得や給与所得は総合課税といって合算されて、税額計算がされますが、この場合の適用税率は所得が高い部分には高い税率がかかる階段構造になっているため、課税所得が900万円以上1800万円未満の部分は住民税を合わせると最高43%、1800万円以上4000万円未満の部分は住民税も合わせると最高50%、4000万円以上の部分は住民税も合わせて最高55%の税率となります。つまり、一人に集中させてしまうと、わざわざ高額な所得税を支払う仕組みを自ら作っていることになります。相続発生前に配偶者とお子さんを養子縁組しておけば、相続で財産を取得できます。

 例えば相続人の課税所得が500万円で、被相続人の不動産所得が1500万円(A物件所得600万円、B物件所得500万円、C物件所得400万円)の場合、一人で相続してしまえば、課税所得が2000万円になり、住民税も加えれば最高50%の税率で課税される部分が出来てしまいます。これを、相続人と配偶者とお子さんの3人でそれぞれ1物件ずつ相続すれば、それぞれ約30%~33%程度(住民税込み)の税負担で済みます。

(2)共有相続で事業的規模をクリア

 不動産所得は事業的規模であれば、青色申告特別控除は最大65万円控除が適用でき、家族へ専従者給与も支払うことができ、赤字になれば3年間繰り越すこともできますので、非常に有利なのですが、形式的な基準としては、貸室10室以上や貸家5棟以上とハードルが高いため、上記(1)のように物件毎に相続人を分けると事業的規模を満たさなくなる場合があります。

 この時の解決策としては、3人が3物件を共有で取得することで、3人とも事業的規模をクリアすることができます。例えばA物件が6室、B物件が5室、C物件が4室の場合、3人が各物件を一棟ずつ相続すれば、すべての相続人は10室未満であるため基準を満たさないですが、A、B、Cを3人の相続人が3分の1ずつ共有した場合の事業的規模の判定は、15室×1/3ではなく、3名とも15室と判定しますので、3名とも事業的規模に該当します。この場合3名の持ち分は均等でなくても良いですので、他に給与所得があって合計所得が大きくなりそうな方の持ち分を少なくすると、所得が抑えられて、効果的です。

 さらに、この不動産所得が事業的規模の場合は、上記の例で、共有にすることで、3人とも青色申告特別控除が最大65万円(複式簿記で記帳していれば55万円、複式簿記記帳に加えて電子申告をされる場合等は65万円)が適用できますので、さらに節税を図ることが可能ですし、所得が多い方がいらっしゃれば、その方から共有者のご家族へ専従者給与をお支払いになることも可能です。特に給与と不動産を合わせると合計所得金額が1000万円を超える方の場合、配偶者控除の適用はありませんので、配偶者を青色事業専従者とすると節税となる場合が多いです。

3.まとめ

 青色申告制度は被相続人が青色申告でも、相続人は申請しない限り適用することができません。この制度は特に事業的規模である不動産所得のある場合に、効果的ですので、相続人でも初年度から適用を受けられるように、忘れず届け出しておきましょう。また、所得税は所得がお一人に集中すると、累進税率により高額な負担となります。そこで所得を分散することを検討するのですが、相続後に分散すれば、売買ならば譲渡所得税、贈与ならば贈与税が課税されるため、分散しにくい場合が多いです。相続前に配偶者やお子様を養子縁組しておくことで、相続発生時に分散することができます。なお、所得分散のための共有相続であっても、兄弟間での共有はおすすめできません。なぜなら、相続を繰り返す度に細分化されてしまいますので、建て替えや売却といった判断をするために、共有者全員の賛同を得る必要が出てきてしまうためです。ご家族内での分散を検討されているのであれば、養子縁組や遺言書の作成などの事前準備と、相続発生時の分割の仕方を工夫して、可能な範囲で所得を分散することをご検討ください。

 相続前、相続後どうすれば所得税の負担を抑えることができるかについてのご相談は、法人化も含めて、1時間の無料相談をご活用ください。

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