ブログ

Blog

相続申告後では手遅れになる手続き(消費税編)

 

 所得税編に続いて消費税編です。近年改正が多く消費税のインボイス制度が令和5年10月から開始されます。インボイス制度では賃借人との関係で、免税事業者でも消費税の課税事業者となるという判断も出てきます。そのため、免税が必ずしも有利ではないことを前提として、税金が少しでも安くなる制度の届け出期限や遺産分割時の工夫についてまとめてみましたので、ご活用ください。

本ブログ「相続申告後では手遅れになる手続き(所得税編)」もご参照ください。

1.相続申告後では手遅れな手続き

(1) 簡易課税制度選択届出書

 消費税の計算方法には2種類のやり方があります。一方は本則課税といわれる方法で、売上に係る消費税から仕入れ(経費や資産購入)に係る消費税を控除して計算する方法。他方は、課税売上5,000万円以下の小規模な事業者であれば、簡単に税額計算ができる「簡易課税」という方法です。そして、この「簡易課税」という方法は、「簡易課税制度選択届出書」を提出することで適用が認められます。不動産や農業などは設備投資をする年以外は、簡易課税で計算したほうが、計算が簡単なうえ、税金も安くなる場合がほとんどです。ところが、簡易課税制度は相続が発生した場合、自動的に相続人へは承継されません。相続人が「簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があり、その期限は原則前年の年末までなのですが、相続の場合は特例が設けられており、被相続人から相続により事業を承継した場合に、亡くなった年から簡易課税を選択するための提出期限は、被相続人・相続人の状況によって以下のように定められています。

(2)ケース別提出期限の具体例

(case1)相続人が以前から事業を営んでおり、もともと課税事業者の場合

 相続人が以前から事業を営んでおり、被相続人が亡くなった年も相続人自身の基準期間の課税売上高により課税事業者に該当する場合には、被相続人が簡易課税を選択していたか否かにかかわらず、原則として亡くなった年から簡易課税を選択することはできません(提出期限は亡くなった年の前年12月31日)。

 ただし、課税期間を「3ヵ月」や「1ヵ月」に短縮し、次の課税期間が始まる日の前日までに届出書を提出するといった工夫をすることで途中から簡易課税を選択できる場合もあります。

(case2)相続人が事業を営んでいなかった場合

 相続人が被相続人から事業を引き継ぐ前までは事業を営んでいなかった場合には、被相続人が簡易課税を選択していたか否かにかかわらず、亡くなった年の12月31日が提出期限となります。

 ただし、亡くなったのが提出期限前おおむね1ヵ月以内(つまり12月中)の場合には、年末までに提出することが困難であることから、翌年2月末日までに「消費税簡易課税制度選択(不適用)届出に係る特例承認申請書」を提出すれば亡くなった年から簡易課税を選択することが認められます。

(case3)被相続人が簡易選択なく、 相続人は以前から事業を営んでいた場合(当初免税)

 この場合、原則として亡くなった年から簡易課税を選択することはできません

 ただし、課税期間を「3ヵ月」や「1ヵ月」に短縮し、次の課税期間が始まる日の前日までに届出書を提出するといった工夫をすることで途中から簡易課税を選択できる場合もあります。

(case4)被相続人は簡易選択ありで、相続人は以前から事業を営んでいた場合(当初免税)

提出期限は、亡くなった年の12月31日です。

 ただし、亡くなったのが提出期限前おおむね1ヵ月以内(つまり12月中)の場合には、年末までに提出することが困難であることから、翌年2月末日までに「消費税簡易課税制度選択(不適用)届出に係る特例承認申請書」を提出すれば亡くなった年から簡易課税を選択することが認められます。

相続人の状況    被相続人の簡易課税の届出の有無相続人の簡易課税届出書の提出期限
相続以前から課税事業者(case1) 期限に影響なしその年からは選択できません
相続前は事業なし(case2) 期限に影響なしその年12月31日まで
相続以前は免税事業者(case3) 簡易課税の届出なしその年からは選択できません
相続以前は免税事業者(case4) 簡易課税の届出ありその年12月31日まで

2.節税に役立つ分割時の工夫

(1)相続があった場合

 消費税は基準期間(個人の場合は2年前)の消費税がかかる売上が1,000万円を超えている場合に課税されます。相続する前まで免税事業者であった人が、課税事業者である被相続人の事業を引き継いだ場合の取り扱いは下記のとおりです。

①   相続があった年

イ 相続があった年の基準期間における被相続人の課税売上高が1,000万円を超える場合は、相続があった日の翌日からその年の12月31日までの間の納税義務は免除されません。

ロ 相続があった年の基準期間における被相続人の課税売上高が1,000万円以下である場合は、相続があった年の納税義務が免除されます。

 ただし、この場合であっても、相続人が課税事業者を選択しているときは納税義務は免除されません。

②相続があった年の翌年又は翌々年

イ 相続があった年の翌年又は翌々年の基準期間における被相続人の課税売上高と相続人の課税売上高との合計額が1,000万円を超える場合は、相続があった年の翌年又は翌々年の納税義務は免除されません。

ロ 相続があった年の翌年又は翌々年の基準期間における被相続人の課税売上高と相続人の課税売上高との合計額が1,000万円以下である場合は、相続があった年の翌年又は翌々年の納税義務が免除されます。

 ただし、この場合であっても、相続人が課税事業者を選択しているときは納税義務は免除されません。

相続まで免税事業者であった人が、相続により事業を引き継いだ場合の取り扱い

納税義務の判定
相続年基準期間における被相続人の課税売上高で判断
相続年の翌年及び翌々年基準期間における被相続人の課税売上高+相続人の課税売上高で判断

(2)複数の相続人が承継した場合

 上記(1)だけを読むと、被相続人が消費税の課税事業者ならば、消費税を納めなければならないと考えがちですが、共同で相続した場合の取り扱いがあります。まず、複数の事業場を持った被相続人の事業を複数の相続人が承継した場合の取り扱いですが、分割承継があった場合には、相続人の納税義務判定に用いる被相続人の基準期間における課税売上高は、それぞれの相続人が承継した事業場に係る部分の金額だけ考慮すればよいこととされています。( 消令21)

(例1)被相続人がA貸店舗(基準期間(2年前)の年間賃料1,200万円)、B貸倉庫(基準期間の年間賃料600万円)の不動産賃貸事業をされていた場合、A貸店舗を長男(長男の基準期間の課税売上ゼロ) 、B貸倉庫を次男(次男の基準期間の課税売上ゼロ)が承継することとなったときは、長男は納税義務がありますが、次男は基準期間の課税売上が1,000万円以下ですので、納税義務はありません。

それでは上記例で共有にて相続した場合はどうなるでしょうか?

(例2)上記例の被相続人の事業を、A貸店舗、B貸倉庫を長男、次男で2分の1共有とした場合には、長男次男とも基準期間の課税売上が(1,200万円+600万円)×1/2=900万円≦1,000万円のため、二人とも消費税の納税義務はありません。

 このように、分割方法によって消費税を納めなくても良いこともありますので、被相続人と生前に養子縁組をされた事等により、配偶者やお子さんが相続人に含まれる場合は、分割方法を工夫いただくと、消費税を納めなくてもよくなる場合もあります。ただし、冒頭にも申し上げましたが、インボイス制度の中で、賃借人との関係から、敢えて課税事業者を選択する場合もありますので、賃借人とよくお話合いのうえおすすめください。

3.まとめ

 相続が発生した場合、それまで事業を行っていなかった相続人の場合は、被相続人が簡易課税を選択していたかどうか、簡易課税が有利かどうかを税理士へ確認いただいたうえで、簡易課税が有利な場合は年末まで(12月相続の場合は「特例承認申請」を出して2月末まで)に「簡易課税制度選択届出書」を提出してください。

 また、複数の相続人が分割承継する場合は納税義務が発生しない場合もあるため、分け方を工夫して、将来の税金を抑えることもご検討ください。ただし、免税事業者となると、令和5年10月から開始されるインボイス制度の中では、賃借人が消費税計算上支払った賃借料を控除するために必要な「適格請求書」(インボイス)を発行できませんので、この点について賃借人からクレームがあるかもしれません。この点を賃借人とお打ち合わせいただいて、インボイスの発行が必要ということであれば、相続人は新たに「適格請求書等発行事業者」の登録申請書を提出する必要があります。また、相続の時期により、併せて提出する書類も異なりますので、詳細は税務署や顧問税理士へご確認ください。

ご予約・ご相談はこちらへ

SHARE
シェアする

ブログ一覧

ページの先頭へ