親の相続に備える
親の相続について子の立場からいろいろ言うと、「死ぬのを待っているみたいに思われたりしないか?」「財産目当てに今から画策しているように見られたりしないか?」と考えて、下手に動いて誤解されても心外なので、結局何もしないという後継者の方は結構多いのではないかと思います。しかし、ご存知の通り相続対策は発生前に講じないと、ほとんど意味がありません。
今回は、親の相続対策の進め方についてお話しいたします。
1.いきなり相続の話からスタートしない
「お父さんが亡くなると相続税がどれぐらいかかるか計算したことあるの?」「○○さんの家みたいに兄弟で揉めたくないんだよ。遺言書とか考えている?」「相続対策だからと言って建てたマンションは入居率いいの?マンションを建てるためにした借金は、結局僕たち子供が引き継がなきゃいけないんだから・・・」みたいなことを資産家である親御さんに言うと、素直な反応よりも「うるさい。何もわからないくせにえらそうに言うな!おれの名義の不動産なんだぞ」となること請け合いです。
この部分はいきなりお子さんから言われたくない部分なんです。ご本人もどうしたものかと考えておられる問題なので、それをお子さんから指摘されると、いつも温厚なお父さんもガードを高くしてしまい、心を閉ざしてしまうことはよくある話です。
先ず、ご両親の生活を豊かにする話からスタートすると、ある程度話を聞いていただける場合が多いです。ご両親を取り巻く外部の方で、お金に関することを提案できる立場の人(例えば税理士や金融機関の人やハウスメーカーの人、あるいはこれらの人から紹介された人)で、ご両親が一番信頼されている方に相談することです。これらの人からの提案なら、ある程度素直に受け入れてもらえると思いますが、その際にいきなり「相続」ではなく、所得税や健康保険や金利や空室率等の毎年の生活にかかわる部分の提案から初めてもらうのがポイントです。
2.このまま相続が起きたら・・・
上記1で最も信頼する方やその方から紹介された専門家から、毎年のご両親の生活が少しでも豊かになる提案を受けた後で、このままの状態で相続が起きたら発生するであろう問題を提起してもらうと良いでしょう。この問題提起される事は、実は上記1で、お子さんの立場から言うと高確率でご両親の反発をくらう事とほぼ同じようなことですが、信頼する第三者から、客観的に将来こういったことも心配ですと言われると、素直に受け入れていただける場合が多いように感じます。
私共の場合は、主に金融機関のご担当者やハウスメーカーのご担当者からのご紹介で、所得税対策のご依頼を受けてご相談に乗ることがありますが、ご相談の内容がいつの間にか相続対策に変わることはよくあります。
3.一番気になるのは?
私共からお話するのは、最初にご両親の生活費が安定的に確保されているかを確認したうえで、➀納税問題 ②分割問題 ③税務問題 の3種類の問題提起をします。そして、「この中で一番気になるのは?」とお伺いすると、「こんな高い税金どうやったら払えるのか」とか「税金が高いのを下げたい」あるいは「兄弟仲が悪いから将来遺産分割で子供が揉めないか心配」など、一番気になることは人それぞれです。しかし、実はすべて繋がっています。
例えば、現状相続税がいくらで、将来どれぐらいまで増加しそうで、その時納税は可能なのかという問題は納税問題ですが、納税するためにはどのような財産の分け方をしないといけないかという分割問題に繋がり、相続税を下げることで納税困難を解消できないかを検討することにもなりますので、結局相続対策をすべて実行することになるケースがほとんどです。そして、これらはすべて相続後に発生する問題のため、後継者であるお子さんを交えて、お話を聞いていただくことが望ましいですので、この段階から後継者の方の同席を併せてご提案しております。
4.実は親も考えている
そうすると、親御さんからは「子供は何も考えていないようで、心配です」とか「子供が財産を引き継ぐという自覚がなく困っています」とか「話をする機会がなくて相談できません」などのご相談をいただく場合が多いです。
一方、後継者の方とお話すると、「親が相続や財産のことについて、どう考えているか、どのように遺産分割してほしいのか、わからない」「親に相続のことについて話すと機嫌が悪くなるので、こちらから話できない」と、こぼされるお子さんがとても多いのです。親子で同じような思いを持ちながら話の持って行き方やコミュニケーション不足から、誤解を生じて、本来対策するべき相続対策に着手できない方がとても多くいらっしゃると実感しています。
5.まとめ
親子関係というのはかくも難しいものかと感じることもありますが、第三者が上手く問題点を整理してお伝えすると、親子で協力してこの問題に取り組んでいただけるようになります。もともと親子で同じ心配をされていて、お互いに打ち明けなかっただけの場合がほとんどなので、こうなれば対策はどんどん進めることができます。このような親子の橋渡しとなることも、私共の存在意義と感じています。