遺言書付言事項の書き方
1.付言事項とは
付言事項(ふげんじこう)とは、遺言書の本旨(どの財産を誰に相続させるか)ではなく、相続人へのメッセージの部分です。こう言ってしまうと「おまけ」みたいな印象をもたれるかもしれませんが、実際に相続が起きて遺言書を相続人全員の前で開示する際の相続人の皆さんの反応をみていると、この付言事項の内容によって、円満に相続できるのか、せっかく遺言書があってもやっぱり弁護士さんを双方立てて、調停や審判といった法律的な解決をせざるを得ないようになってしまうのかを左右するのではないかと思います。
専門家の中には付言事項を嫌う人がいるのですが、おそらくその専門家が出会った付言事項の出来が悪く、もめ事を誘発させるような内容だったのかなと思います。付言事項は、いわば「必殺技」なのだと思います。
昔、柔道の先生に教わりました。「巴投げという技は決まれば自分よりも大きな人でも投げ飛ばせる技だが、失敗すると相手に抑え込まれて負けてしまうという、いわば『必殺技』だから、リスクを十分理解したうえで、ここぞという時に繰り出さなければならない」
付言事項も効果的な内容であれば、遺言の最大の目的「揉めない相続」が実現するのですが、内容がまずい場合はたちまち紛争の火種となってしまうのです。では、そんな怖いものを書くのはやめようと思われるのもわかるのですが、私は付言事項の作成はぜひすべきと考えています。
2.付言事項の効果
付言事項は法律的には特に効力はないのですが、心情的にはとても効果的です。それは生前に「家族仲良くしなさい」というのと、同じ言葉を死亡後に仏さまとなられた方からのメッセージとして聞くのとでは、重みが違うからだと思います。
ある方の相続のお手伝いをした際は、遺言書の開示をする前は、跡取りの方のお葬式の段取りが悪いとか、初七日以後の法要に行っても迷惑そうにされるなどの不満を聞いていたので、どうなることかと思っていたのですが、お亡くなりになられた方の遺言の付言事項がすばらしい内容であったため、跡取りの方には不満は残るものの、故人が円満相続を望んでいるので、できるだけ協力し合おうという雰囲気に変わったことがありました。このように、いい内容の付言事項は、相続人の心を動かし、一つにまとめるという効果があるのです。
3.付言事項べからず集
それでは、逆に悪い内容の付言事項とはどういう内容でしょうか?
- 特定の相続人を依怙贔屓している
- 特定の相続人を非難している
- 墓場までもっていくべきことを書いている
- 相続の後のことは考えていない無責任な内容
等、思わず眉をひそめてしまう内容です。
そんなこと書く人いるの?と思われるかもしれませんが、子供のことが心配だからこそ、余計なことを言ってしまうのが世の親の常で、口に出すと子供に疎まれるのですが、良かれと思って書いてしまうことってたくさんあるのです。
例えば、「お前は金使いが粗いから心配だ」「お前はどこか人を見下した態度をとるところがいかん」などです。付言事項はご家族への最後のメッセージですので、注意したいところですね。
4.付言事項に書くべきこと
付言事項に書くべきこととしては、そのご家族に向けた言葉で、その方との具体的な思い出等を交えながら「あの時は楽しかった」「うれしかった」「ありがたかった」等、その時の感情を言葉にしてみてください。
基本的にプラスのことしか書かないのが原則ですが、どうしてもマイナスのことを書きたいときは、プラスの言葉でサンドイッチにすると比較的和らぎます。
例えば「あなたは、理屈っぽく人に対して不遜な態度をとることがあるので気を付けるように」と書いてしまうと嫌な感情しか残りません。これを「あなたが子供の頃はとても利発な子で鼻が高かったです。その反面、頭が良いがゆえに人から受け入れられなかったり、対立したりすることもあるのではないかといつも心配していましたが、頭のいいあなたのことですから、親戚やご近所など周囲の人とも上手くやってくれるものと信じています。」と、プラスの言葉でサンドイッチにすれば、比較的和らぎます。
5.まとめ
せっかく遺言書を作るならば、付言事項を付けることをお勧めします。難しい事や美しい文章を書く必要はありません。不器用でも「お父さん(お母さん)はこんなことを思ってくれていたんだな」「こんな楽しい思い出があったな」と相続人全員が故人を偲ぶ気持ちになれば、そこを基点として調整できますので、紛争となる可能性をかなり少なくできます。
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