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相続させる?遺贈する?取得させる?

 自筆証書遺言については、近年の改正により、財産目録が自筆である必要がなくなり、パソコン作成が可能になりました。また、自筆証書遺言保管制度が始まり、法務局に預ける際に形式の確認が行われるようになり、この制度を使えば相続発生時の検認も必要なくなりました。

 このように自筆証書遺言について簡易化され、制度的にも便利になり、ご自身で「遺言書を書いてみよう」と思い立って色々調べてみると、言葉の使い方ひとつで違う結果になったりしてなんだかややこしい、と感じた方も多いかもしれません。
 そこで今回は、「相続させる」「遺贈する」その他(「取得させる」など)の表現の違いが、どのような結果の違いに繋がるのかをご説明いたします。

1.「相続させる・遺贈する」の違い

 遺言書の文言のうち、最も代表的なのが「○○に相続させる」と「○○に遺贈する」です。この二つの違いは難しいようで実はシンプルです。「相続させる」という文言は、相続人に対してしか使えません。それに対し、「遺贈する」という文言は、相続人以外の人に対しても使うことができます。
 なお、遺言により財産を残す人を「遺贈者」といい、遺言によって財産を受け取る人を「受遺者」といいます。つまり「遺贈する」旨の遺言によって財産を残された「受遺者」は、相続人とは限らない、ということになります(例えば「孫」や「内縁の妻」をイメージしてもらうとわかりやすいかもしれません)。

この文言の違いによって、以下のような手続き上の違いが生じることになります。

① 不動産が対象の場合の相続登記

・「相続させる」旨の遺言の場合
 指定された受遺者が単独で相続登記を行うことができます。そのため、他の相続人の署名捺印及び印鑑証明書を添付する必要がありません。
・「遺贈する」旨の遺言の場合
 相続人全員が共同して相続登記を行う必要があります。そのため、他の相続人の署名捺印及び印鑑証明書を添付する必要があり、手続きが増えてしまうだけでなく、遺言書に不服のある他の相続人の協力が得られない場合には相続登記ができず、裁判を起こす必要が生じる可能性もあります。なお、遺言執行者が選任されている場合は、遺言執行者のみが申請することにより登記を行いますので、「遺贈する」旨の遺言であっても上記のような問題は生じません
 ※補足ですが、相続登記にかかる登録免許税は、文言に関わらず、相続人が取得する場合は固定資産税評価額×0.4%、相続人以外が取得する場合は固定資産税評価額×2%となります。

② 借地権、借家権が対象の場合

・「相続させる」旨の遺言の場合
 引き継ぎに際して、賃貸人の承諾は必要ありません。従前と変わらずその借地権又は借家権を使用することができます。
・「遺贈する」旨の遺言の場合
 引き継ぎに際して、賃貸人の承諾が必要となります。そのため、賃貸人の承諾が得られない場合には裁判を起こす必要が生じる可能性があります。特に借地権については、名義変更の際に「名義書換料」等の名目で金銭を支払う慣習がある地域では、これを支払わないと賃貸人が承諾してくれないこともあり得ます。

③ 農地を相続又は遺贈された場合

・「相続させる」旨の遺言の場合
 農地の取得について、農地法3条の許可は必要ありません。農業委員会に届出を行うのみです。
・「遺贈する」旨の遺言の場合
 農地の取得について、原則として、受遺者が相続人の場合、又は受遺者が相続人以外の場合であっても包括遺贈(相続財産の全部、2分の1等の割合を指定する遺言)された場合には、農地法3条の許可は必要ありません(農業委員会への届出は必要です)。
 受遺者が相続人以外で特定遺贈(「○○県○○市○○番の農地」等として、特定の財産を指定する遺言)された場合のみ、農地法3条の許可が必要となります。
 農地法3条は、継続的・安定的に農業が行われるよう、農地を取得することができる人の要件を定めています。例えば、農地の全部が効率的に利用されているかどうか(「全部効率利用要件」)、概ね年間150日以上農業に従事しているか(「農作業常時従事要件」)、従前から保有している農地と遺贈によって取得する農地の合計面積が一定以上(神戸市の場合は1000㎡以上)かどうか(「下限面積要件」)等です。農地を特定遺贈された相続人以外の受遺者は、これらの要件に適合していなければ農地を取得することができません。
 例えば、孫が農業を好きで、孫に農業を継いでもらおうと思って農地を渡す遺言書を書いたのに、「遺贈する」と書くと許可が必要になり、農地をうまく受け取ることができない、ということにもなりかねません。かといって相続人でない孫に「相続させる」と書くこともできませんので、別の手段(養子縁組など)も併せて検討する必要があります。

④ 引き継いだ財産を放棄する場合

・「相続させる」旨の遺言の場合
 相続放棄を行うには、原則として、相続の開始があったことを知った日から3ヵ月以内に家庭裁判所に対して相続放棄の申述書を提出する必要があり、遺言書がない場合と変わりません。また遺言の内容が特定遺贈の場合、その特定の財産だけを放棄することはできず、全部の財産について相続放棄をするか、相続人全員で遺言書を反故にして分割協議をやり直すしかありません。
・「遺贈する」旨の遺言の場合
 その遺言書の内容が特定遺贈の場合と包括遺贈の場合で対応が異なります。
 特定遺贈の場合は、相続人または遺言執行者に対する意思表示によって放棄を行います。家庭裁判所に対して手続きを行う必要がなく、意思表示のみで足りることになりますが、念のために他の相続人に対して内容証明郵便によって意思表示を行っておく方が無難でしょう。また、遺言の内容が特定遺贈の場合には、その特定の財産だけを放棄することができます。
 包括遺贈の場合には、上記「相続させる」旨の遺言と同様の対応となります。
配偶者居住権(被相続人の所有建物を対象として、配偶者の使用又は収益を認める権利)を遺贈したいときは法律上「遺贈する」という文言でなければならないことになっています。上記のように「遺贈する」旨の特定遺贈であればその財産のみを放棄できるのに対し、「相続する」旨の特定遺贈であればすべての財産を放棄することになりますから、配偶者が配偶者居住権を不要だと判断した(自宅に住まず、引っ越したい)場合に、配偶者居住権のみを放棄することができるようにした方が配偶者の権利保護につながるためです。

2.「取得させる・任せる・託す」など

 「相続させる」又は「遺贈する」以外の文言(「取得させる」「任せる」「託す」など)であったとしても、原則としてその遺言書自体が無効になることはないと考えられます。しかし、登記等の手続きにおいては「相続」なのか「遺贈」なのか、或いは単に財産の「管理」なのか区別がつかず、手続きが長期化したり、結局分割協議書を作成することになる可能性もあります。そのため、「相続させる」又は「遺贈する」のどちらかに統一した方が無難です。

3.まとめ

 今回は遺言書の「相続させる」「遺贈する」等の文言について解説を行いました。
 確かに遺言書はれっきとした法律行為ですから、形式が定められており、あまり自由な文章で書くことはできませんが、それほど難しく考えることはありません。
 結局のところ、「相続させる」旨の遺言書のほうが手続き上の手間が少ないため、相続人に対して遺言書を残すなら「相続させる」、相続人でない人に対して遺言書を残す場合にのみ「遺贈する」という風に文言を使い分けるという理解をしておいていただければ十分です。
 相続放棄の問題はありますが、生前に相続人とお話をしておけば上記のような問題も起こらないと思われます。例外は配偶者居住権についてのみ「遺贈する」としなくてはならないことだけです。
 自分が書いた遺言が法律的に有効かどうかについては、公正証書遺言であれば公証人が、自筆証書遺言については、遺言保管制度を利用すれば、遺言書保管官がそれぞれチェックしますが、遺言書保管官のチェックは遺言書の形式に対して行われるものであり、遺言の内容に関する相談には原則応じてもらえません。この点、公証人であれば遺言書作成の前段階から相談を受けてくれるため、やはり公証人役場に赴いて公正証書遺言を作成するほうが安心かもしれません。

 今回ご説明したように文言の違いについて気をつけなければ、せっかく遺言を残しても手続きが簡略化できない場合がありますから、内容だけでなく、表現にも注意しながら遺言書を作成してみてください。

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