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親の意思能力がなくなったら・・・  【後編】

 前編では、判断能力の不十分な方々を保護し、支援する成年後見制度の概要について説明してきました。【前編】ブログ記事へ☜

4.資金面の問題なら法人化も有効

 不動産賃貸業が主な収入源で、土地の売却等は行わないけれど、親の資金を自由に引き出せなくなることが困る、というご家族であれば、法人化も有効な手段です。
 法人を立ち上げ、家族を代表取締役等に就任させたうえで、その法人に親の収益物件(建物等)を譲渡することで、収入を法人に移行させることができ、その収入を給与として家族に渡すことができます。この方法なら、資金の分配はもちろん、収益物件の管理や賃貸契約も法人が行うことができますから、物件の管理面等の心配事も減らすことができ、親の財産・所得の内容によっては節税になる可能性もあります。

 上記のような法人化には、設立費用50万円程度、不動産取得税、譲渡税等がかかります。法人化のための費用は、その形態や建物の規模等によってまちまちですので、税理士にご相談ください。

5.制度を利用するための費用

 以下にそれぞれの制度にかかる費用の概算を示します。
 ただし、いずれの制度においても専門家等にかかる費用等は概算であり、特に家族信託については財産内容や事情によって大きく上下するものですので、目安程度にお考えください。

(1)法定後見制度

初期費用費用金額
申立手数料等2万円
鑑定費用 ※15~10万円
専門家報酬10~30万円
専門職後見人報酬 ※210~30万円
継続費用費用金額
法定後見人費用 ※3月額2~6万円
法定後見監督人費用 ※4月額1~3万円

※1 鑑定とは、被後見人となる人の意思能力の程度を医師が診断することです。家庭裁判所の判断で不要とされることも多く、その場合には費用はかかりません。
※2 後見制度支援信託を利用する場合のみ必要です。現在の制度運用上、成年被後見人に1000万円以上の預貯金がある場合、後見制度支援信託の利用を家庭裁判所から勧奨される可能性が高いです。後見制度支援信託とは、通常使用しない被後見人の金銭を信託銀行等に信託する仕組みのことで、解約等には家庭裁判所の指示書が必要です。
※3 家族が後見人となった場合には不要です。
※4 法定後見監督人が選任された場合のみ費用が発生します。なお、法定後見監督人とは、法定後見人を監督する人で、家庭裁判所が必要と認める場合(所有財産が多い場合など)に選任されます。

(2)任意後見制度

初期費用費用金額
公正証書作成費用2万円
専門家報酬5~10万円
申立て手続き1~2万円
鑑定費用 ※5~10万円
継続費用費用金額
任意後見監督人費用月額1~3.5万円

※ 鑑定が必要であると家庭裁判所が判断した場合のみ必要です。
※ なお、後見人に対する報酬は契約によって定めることができ、財産額によって月額2~6万円が相場です。外部への費用ではないので上記表からは除外しました。

(3)家族信託

前提条件:所有財産3億円[内訳:現金その他 5千万円、自宅 5千万円(土地3千万円、建物2千万円)、収益不動産(土地 1.2億円 建物8千万円)]

初期費用費用金額
公正証書作成10万円
コンサルティング220万円
登記手数料16.5万円
登録免許税85万円
継続費用費用金額
信託監督人費用 ※月額3万円

※ 信託監督人を置かない場合は不要です。信託監督人とは、信託の受託者が適正に事務を行っているか監督する人であり、信託契約で指定するか、又は利害関係人の要求により指定されます。

6.まとめ

 法定後見人制度を利用することになるのは面倒ごとが多いから避けたいけれど、かといって任意後見も家族信託も法人化も費用がかかるし、結局認知症に罹らなかったら無駄になるから足踏みしてしまう、という方もおられると思います。
 実際、費用の問題は大きいです。特に家族信託の初期費用はずば抜けて高額であり、法定後見・任意後見の比ではありません。逆に、家族信託では継続的な費用が発生しないこともありますが、法定後見・任意後見では法定後見人(専門家が就任した場合)及び任意後見監督人の費用等が継続的に発生します。また、法人化については節税になる可能性がありますが、設立費用や登記費用自体は安いとは言えません。
 そのため、将来的に行いたいこと(不動産の売却、資金の分配等)の重要性と、それぞれの制度にかかる費用を比較して、利用すべきか否か、利用するならどれを選ぶべきかを考える必要があります
 どの制度を利用すべきかの選択基準は、それぞれの事情によって異なります。しかし、利用すべきか否かの選択は、ご自身又はご家族が成年後見制度を利用することを想定し、将来行いたいことができなくなると、自分や家族がどのくらい困るのかを基準として判断する必要があるでしょう。
 誰かが認知症になった後のことを想像するのは気持ちの良いものではありませんが、最悪の事態を想定したうえで、最悪の事態だけは避けることができるよう、準備をしておくことが大切です。

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